自動車税でエヴァンゲリオンは動かない。

雑記

5月に届く地獄への招待状 

 4月下旬のゴールデンウィークの余熱をまだ微かに感じる5月も半ばに、奴は突然やってくる。

そう 【自動車税】 である。

※自動車税・軽自動車税・・・4/1時点の車所有者が納める税金。総排気量によって税額は異なる。)

「4月に固定資産税払ったばっかりじゃないかあああ!!」

絶対言うセリフですよね これ毎年。

しかも我が家はファミリータイプの車を所有している為、税額は4万円近くとゴールデンウイークに散財した家計には、カイロスのハサミギロチンの如く骨身に食い込んでくるのである。

そのハサミギロチンを必死にかわす妄想をしている私を瀕死状態にすべく 奥様から息の根を止めに来るサイドンのじわれ攻撃の如く追撃が。

『ゴールデンウイークでお金使ったし、自動車税もあるし 今月は小遣い我慢してね。』

「は ?」

『いや だから 自動車税4万くらいするし カットで。』

「カットで。って美容院のオーダーみたいにさらりと。それはさらりと仰いますが。」

「冗談じゃねええ!」

私は自動車税の納付書を床に叩きつけて 家を飛び出した。

我を忘れて2023

そもそも自動車税とか固定資産税って何なんだよ。

所有してるから税金払えって

そもそもガソリンや住宅購入時に税金(消費税とか)たんまり払ってるだろ。2重課税だろ!

こんな愚痴や怒りが脳内をランニングしながら

感情に任せて家を飛び出した。

分かっている。

そもそも私に十分な稼ぎや、潤沢な貯蓄があれば

小遣いカットなどという刀狩りに遭うことはなかった。

だが私にも言い分はある。

「給料入ったら焼肉行きましょうね!」と後輩と約束してる件とか

「久しぶりにゴルフでもいきましょうか」と旧友との再会を兼ねた件とか

新しいマジックが出ており試したい衝動とか。

まあ 30代ともなると色々あるのだ。

その色々を実現する為に 頼れるのはもはや自分しかいない。

感情に任せて 自転車をこいで行くと 気が付けば駅前であった。

そして私の視線に毒々しい蛍光色で書かれた文字が飛び込んできた。

【!!新台入替!!エヴァ暴走中】

これしかない。

あとに引けない3万円を握りしめて

私はエヴァンゲリオンに一礼した。

棒立ちシンジと栗山監督

エヴァンゲリオンをご存じだろうか。

今や国民的アニメの1つで、海外ファンも多い 日本アニメの代表作とも言われる。

特徴の一つとして、パチンコ台にも過去からシリーズ化されており一世を風靡した。

パチンコ台を通じて、エヴァに初めて触れた人も多いのではないか。私もその1人である。

サンド(※お金を投入するところ)に千円札を投入し、上皿に玉がジャラジャラと補填される。

隣には年金生活者であろう老人と 画面を見ずに手元のスマホを見ながら遊戯する大学生。

老人や大学生には悪いが これから私は“遊戯”ではなく 口約束という最後のプライドを守る為の血生臭い闘いが始まるのである。

千円はものの5分で溶けた。

そんなことは想定の範囲内である。

我がプライドを守るエヴァンゲリオンはそんな簡単には起動しないことは知っている。

(5千円が溶ける)

ほう。

なかなか芯のある 1本筋の通った頑固なエヴァとお見受けした。

平静を保つ為に耳にイヤホンを装着し、少しでもお気楽なBGMを体に流し込むために

FM802をアプリで起動した。

大丈夫。まだ闘える。

(1万円が溶ける)

隣のエヴァンゲリオンは、繁殖期の猫のようにギャオギャオ咆哮し 大爆発を始める。

ここで嫉妬するようでは 自分に運が巡ってこないことは 私は知っている。

人の幸せを喜べてこそ 自分に幸せは訪れるのである。

「さあ そろそろ 起きようか」

渚カヲルの如く 優しい笑顔と 冷や汗が滲んだ手で 右上のエヴァの頭を撫でてみた。

ハンドルを握る手にも力が入る。なにせ今回はプライドと未来を懸けた闘いなのだから。

(2万円が溶ける)

イヤホンのボリューム更にを上げる。ラジオの音声を流し込む。

思春期の引きこもる青年の如く 口を真一文字に結んだままエヴァは動かない。

そろそろお母さん怒るよ?

(2万3千円が溶ける)

ラジオのボリュームはMAXだが、もはや何の曲か分からない。

(2万6千円が溶ける)

隣の発情期のエヴァは、狂ったように鳴いている。

おい。

隣の老人がワゴンサービスでコーヒーを注文し、ウイニングランへ。

遂に画面見ていない大学生にも確定音という 大当たりを知らせる下品な それは下品な音が流れる。

おい。おい。おい。

(2万8千円が溶ける)

頭がおかしくなり、youtubeで ワニが電気ウナギに感電する動画とか見だす。

もはや正常ではない。

耳からは懐かしいヒルクライムが行先も分からず“今年はどこ行こうか”を連呼している。

「行先くらい決めとけよ!!」

ヒルクライムに八つ当たりしだしたくらいから記憶がないのである。

(3万円がすべて溶ける)

結局、引きこもりのまま 能面のように固まった私のエヴァンゲリオンは最後まで起動しなかった。

 WBCで日本代表チームを世界一まで導いた栗山監督をご存じだろうか。

彼は優勝後の記者会見でこう述べている。

野球は不平等・理不尽を教えるスポーツだ

そうなのだ。

社会はとても理不尽なのだ。

生まれた時点でスタートラインが違いすぎる。

努力では埋めることのできない“何か”は確実に存在する。

だからこそ 困るのだ。

命がけのお金で勝負したエヴァは 派手に起動して大活躍してくれないと困るのだ。

自動車税の納付書をきっかけとした 私の社会の理不尽への反抗は瞬く間に鎮火することとなった。

画面には棒立ちのシンジ君が 満面の笑顔で写っていた。

拝啓 ヒルクライムさん 行先を決めずにどこか遠くへ私も連れて行ってくれ。

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